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2011年02月06日(日)
『ダンス・イン・ザ・ミラー』

東京バレエ団『ダンス・イン・ザ・ミラー』@ゆうぽうとホール

東京バレエ団によるベジャール・レパートリー。『ダンス・イン・ザ・ミラー』初演と『ボレロ』、間にベジャールバレエ団芸術監督ジル・ロマンからの「サプライズ・プレゼント」として急遽プログラムに加えられた『チェロのための5つのプレリュード』。

『ダンス・イン・ザ・ミラー』は東京バレエ団のためにつくられた新作で、ベジャール振付の名場面をジル・ロマンが再構成したもの。昨年末上演されたばかりの「M」から、日本未発表の「現代のためのミサ」「未来のためのミサ」「ヘリオガバル」迄、過去に執着せず再演されない作品も少なくなかったベジャールのレパートリーを一挙に観られる貴重な作品になっていました。

「Je ne pourrais croire qu'en un Dieu qui saurait danser(わたしは踊ることのできぬ神を信じることはできない)」と言う『ツァラトゥストラはかく語りき』からの引用を語るベジャールの音声、析を手にした若き日のベジャールがフロアに正座し、ツケ打ちを行う映像から幕は開きます。サイケロック色の強いピエール・アンリ「ジャーク」にのって、ジーンズ姿のダンサーたちが飛び込んでくる。アヴァンギャルドではあるけれどクラシックバレエをきちんとやってないと踊れないと言うベジャールの振付に加えてジーンズ、これはかなり大変そう。しかしそんなことを微塵も感じさせないダンサーたちの笑顔と躍動。ジャンプや走る場面も多く、「バロッコ・ベルカント」ではブレイクダンスまで織り込まれている。

「M」や「火の鳥」でもダンサーたちはジーンズだったんだけど、いやあ、格好よかったわ…全編の要所要所で、ブレイクダンスや体操競技を思わせる倒立からの宙返りというアクロバティックなソロを見せてくれたのは高橋竜太さん。実際体操競技をされていた方だとか。着衣が乱れないように、長めのジャケットがジーンズのウェスト部分に縫い付けてあり、それも含めた動線が美しい。カジュアルな衣裳で踊るバレエもいいですねえ。一方「ヘリオガバル」で登場したのは、タイツ状のぴったりしたバレエダンサーらしい衣裳を身にまとった上野水香さんと柄本弾さんのカップル。トライバルなリズム(チャドの伝統音楽)にのせた官能と野性が紙一重なダンス、見応えありました。「舞楽」 の小笠原亮さんや 長瀬直義さん、全編通してベジャールの世界を旅し、お芝居的な要素も演じた木村和夫さんもよかったー。

フィナーレは「未来のためのミサ」から。人生を絶望では終わらせない、と言う強い意志が感じられる、明るく幸せな幕切れでした。黒子的な役割だった団員さん(上下黒服で、バミリテープやメジャーをポケットに入れていた)も全員出て来たところにも笑顔。

上演前に舞踊評論家である(映画の記事も沢山書かれてますね)佐藤友紀さんによるプレトークがあり、ロマンとベジャールの出会い、東京バレエ団とベジャールの関係等興味深いお話が沢山聞けたのですが、「未来のためのミサ」本編(『ダンス・イン・ザ・ミラー』には入っていない)ではペンギンの衣裳と振付があるとのこと。これについてベジャールは「ペンギンのいる南極は、地球がどんなに汚染されても最後迄清潔でいられる。ペンギンも生き残る」と話していたそうです。そんなふうに考えるベジャールは素敵だし、だからこそ常に生命力溢れる作品を生み出せたのだなと思いました。

『チェロのための5つのプレリュード』は吉岡美佳さんと高橋竜太さんのペア。バッハの有名な曲からのものですが(清水靖晃さんがサックス編曲版を手掛けたアレです)、この曲からこんなかわいらしい作品が!高橋さんはなんとボクサーコスチューム、コミカルな動きでチェロにおそるおそる触れたり思いあまって抱きしめたり。それをこっそり見乍らムッとしたり、はしゃいだ笑顔を見せたりとくるくる表情を変え、幸せそうに踊る吉岡さん。面白かったし、ひとなつこい魅力がありました。やーこれまた観たい。日本初演はクリスティーヌ・ブランさんと小林十市さんのペアだったそうです。うわーこちらも観たかったな……。

そして『ボレロ』。ようやっと水香さんのメロディを観ることが出来ました。官能的でエモーショナルなメロディ。二列目から観たこともあり、すごい迫力。ネイルのつやが照明に輝くのもハッキリ見えたし、激しい踊りのせいか?どこかにひっかかったのか?髪の毛がちぎれて飛び散った瞬間迄見えた!お人形のようにかわいらしい顔立ちが終盤に近付くにつれどんどん厳しい表情になる。リズムのダンサーたちと感情のやりとりをしているような一体感も素晴らしかったです。